米海軍艦船への新補給方法を検討へ
与党・政府は、安倍晋三首相の退陣で一段と困難になったテロ対策特別措置法の期限延長や同法に変わる新法の制定を断念し、現行の憲法や自衛隊法の枠組みのなかで可能な米海軍への補給方法を検討することを決めた。
現在、インド洋には海上自衛隊の補給艦が派遣されており、米海軍の空母や駆逐艦などへの給油・給水活動に従事しているが、特措法が11月1日に期限切れを迎えれば違憲・違法となる。そこで対米関係を重視する自民党内部で急浮上しているのが、自衛隊に頼らない補給活動の構想だ。外務省の関係者は「日本の民生技術を生かせば、自衛隊でなくても国際貢献することは十分に可能」とみる。
国内の石油業界団体である石油連盟も、中東情勢の安定が今後の原油確保に不可欠との観点から民間ベースでの補給活動を後押しする構え。洋上とはいえ軍艦への補給活動にはテロの標的になる危険がともない、民間人が従事するのは難しいとみられていたが、池田吾郎専務理事は、省力化の技術はすでに確立済みと指摘する。
「北海の海上油田のような無人の補給ベースをインド洋に設置したうえで、米の艦船に立ち寄ってもらい、その乗組員に給油・給水させればいい。カード式の認証システムを搭載することで、テロリストや海賊に油や水を盗まれるのを防ぐこともできる」
無人の補給ベース設置には概算で1200億円程度が必要とみられるが、人件費を節約できることから長期的にみれば自衛隊による補給よりも割安で、将来は1リッターあたり4〜5円の値下げにつながる可能性もあるという。
しかし、Sea Energy Large Feed(海上エネルギー大規模補給)と呼ばれるこの枠組みで、従来のような補給が継続できるかどうか疑問視する声もある。米国務省のスポークスマンも「まだ日本政府から正式な提案があったわけではないが、過去の補給活動で蓄積されたポイントが無駄にならないか、過去と同じようなきめ細かいサービスの質が維持されるかを注視している」と懸念を示した。
そこで浮上しているのが、支援の中心となる給油・給水活動を無人で行い、ベースに常駐する少人数の作業員が幅広い付帯活動を行なうという折衷案。ブリッジのガラスが汚れていないか、灰皿が吸い殻でいっぱいになっていないか、お得なキャンペーン中のオイル交換は必要でないかなど、米側に対する心配りが要求される任務であり、人選は難航が予想されるが、首相官邸サイドから「対米関係を何よりも重視し、もうすぐヒマになる男」の推薦状が届いている模様だ。
2007/9/13地球に優しくハッカで涼む
北海道北見市郊外の丘陵地帯。オホーツク海から吹いてくる風が心地よいのは、季節が秋を迎えて涼しくなったことだけが理由ではない。鼻の奥までヒンヤリとするようなクールな香りの正体は、見渡すかぎりの畑に植えられたハッカから揮発したメンソールだ。
田口哲樹さんはこの地域を代表するハッカ農家。「イライラしたときは、ここに立って畑を見回すんですよ。空気が気持ち良くて、いつのまにかイライラの理由も忘れてるんです」
かつて北見市は世界一のハッカ王国だった。戦後からハッカ農家が増え始め、精製工場で結晶化されたメンソールは食品、ガム、タバコの原料として欧米を中心に世界各国に輸出されたが、栄華は長く続かなかった。石油からのメンソール合成技術が確立されるとハッカ相場が急落。南米の広大な耕地で安価なハッカが生産されるようになったことも影響し、北見産のハッカは山のように売れ残った。ハッカ畑は次々とジャガイモ畑やビート畑へと生まれ変わり、専業農家は田口さんを含め3世帯だけになった。
状況が変わったのは15年ほど前から。都市部のトイレでシャワートイレが普及するにつれ、大都市圏を中心にメンソールの新しいニーズが広がった。噴射水に少し混ぜるだけで、体の芯から納涼感に浸れることが主婦向け週刊誌で紹介され、口コミでブームが広がったのだ。トイレ用のボトル入りハッカ液も相次いで発売され、昨年の販売量は3億本を超えた。
ハッカへの期待は高まるばかりだ。栽培の過程で大気中の二酸化炭素を吸収することから、化石燃料に依存した空調よりもはるかに地球にやさしい。ほかのバイオ燃料よりも優れており、サトウキビから醸造したアルコールで発電してエアコンを作動させ、体を外から冷やすよりも、ハッカ液とシャワートイレで体を芯から冷やすほうがエネルギー効率は300倍高いとの報告もある。
田口さんはハッカの新たな用途を意外には思っていないという。「うちも昔から、夏になると愛用してましたからね。もっとも当時はシャワートイレがなかったので、葉っぱをそのまま使ってたんですが」
日本列島が記録的猛暑に包まれたこの夏、需要は急増し、ボトル入りハッカ液が売り切れする店が続出した。メーカーに強く増産を要請された田口さんは、休耕地を周辺の農家から借り受けて、さらにハッカ畑を広げるつもりだ。
しかしそれは来年の話。北見には晩秋、そして厳しい冬が足早に訪れる。ハッカの収穫を終えたら、すぐにビニールハウス内でのトウガラシ栽培の準備だ。「シャワートイレとトウガラシ液さえあれば、寒い北国でも光熱費がタダになるんです」。田口さんの口調は、実体験に裏打ちされた確信に満ちているように聞こえた。
2007/9/11石炭リングで夕張再建支援
宝石販売店チェーンの銀座ジュエリーマキは、財政再建団体に指定された北海道夕張市を支援するため、石炭リングを全国の店舗で発売する。収益は全額、夕張市に寄付する。
夕張市はかつて石炭で栄えた街だが、主力のエネルギーが石炭から石油に移ったことから急速に衰退。市内にあった炭坑はすでに閉山している。それでも石炭は夕張のシンボル。映画祭やメロンを利用した夕張振興策が相次ぎ発表されるなか、石炭も利用できないかとの声があがっていた。
銀座ジュエリーマキでは、炭坑跡に残されていた石炭を活用し、宝石の加工技術を利用して石炭リングを開発した。40カラットタイプ(写真)の場合、小売価格は320円。15個程度を集めて火をつければ、やかんで湯を沸かすこともできるという。
同社には全国から問い合わせや注文が寄せられているが、地質学者の間には「石炭のまま地中に残し、十数億年高い圧力をかけてからダイヤモンドの指輪として売り出したほうが財政再建に貢献できるのではないか」との冷ややかな見方も。
2007/5/30新婚さんいらっしゃい、世界最長記録に認定
人気落語家で、テレビ番組「新婚さんいらっしゃい」の司会を35年間にわたり続けている桂三枝さんが、ギネスブックに「世界で最も長い期間、同じ動作でズッコケ続けたコメディアン」として認定されることになった。ギネスブック編集部から知らせを聞いた三枝さんは。「転がる椅子に苔はむさない。これからもどんどんズッコケたいですね」と話している。
「新婚さん」では、新婚夫婦のユーモラスなトークに、三枝さんが椅子ごと転がって反応するのが「お約束」となっている。お笑い評論家の間では、三枝さんのこのズッコケはタイミング、角度、キレともに絶妙であり、これを超えるものは永遠に出ないだろうという見方が定着している。アテネ五輪で3連覇を成し遂げた柔道の野村忠宏選手が、ズッコケシーンだけを集めたビデオを毎日見てイメージトレーニングを重ね、背負い投げの技を磨いたのは有名な話だ。
「座ったまま転がる三枝さんの動きは足腰の弱ったお年寄りの体力づくりに最適」と語るのは、兵庫県立体育大学の盛永喜義教授だ。盛永さんが「三枝レプリカ」と名付けた椅子50個を大型トラックの荷台に積み訪れた県内のとある公民館。集会室の中央に置かれた大型テレビのなかで三枝さんが椅子ごとスッコケると、ほぼ同時に50人のおじいさん、おばあさんが同じ方向に足を向けてひっくり返った。
しかし、現在も更新中の最長記録が、近く止まってしまうとの見方もある。転がりすぎるのは地震のときに危険と考えた経済産業省が、三枝さんの椅子についても平成21年までに耐震強度基準を導入する方針を明らかにしたためだ。番組を制作している朝日放送では、三枝さんを椅子ごと固定し、アシスタントの山瀬まみさん、新婚夫婦、会場のリサイタルホールごと転がすことを検討している模様だ。
2007/5/27高松塚古墳でDNAはぎとりに成功
文化庁は12日、高松塚古墳に残されていた埋葬者の骨からDNAのはぎ取りに成功したと発表した。DNAは数百b離れた研究施設に運ばれ、今後10年をかけてクローン技術を確立。埋葬者の完全再現を目指す方針だ。
カビで貴重な壁画が失われつつある高松塚古墳では石室が解体され、今後壁画の本格的な修復作業が行われることになっているが、埋葬者の人骨は朽ち果てたままで、一部の歴史学者からはダブルスタンダードではないかと疑問の声が上がっていた。DNAのはぎとり成功は、埋葬者を含めた古墳全体の復活に向けた大きな一歩となりそうだ。
石室の一部や副葬品の大半は鎌倉時代の盗掘のために失われているが、埋葬者の記憶も復活することができれば、本人の名前や地位のほか、壁画の図案、色、副葬品についても情報も得られそうだ。
文化庁では、壁画の修復完了後、本人からの聞き取り調査をもとに約1300年前と同じ状況で再度埋葬者を死亡させて、高松塚古墳の完全復活を図ることにしている。
2007/5/13「女性は機械」以前にも数々の問題発言
女性を「子供を産む機械」に例えたことが問題視され、野党だけでなく与党内からも辞任要求が噴出している柳沢伯夫厚生労働省が、過去にも同様の問題発言を繰り返していたことが判明した。柳沢氏本人の人間性に疑問符のつく内容のものもあり、辞任要求が一段と強まるのは必至の情勢だ。
柳沢氏は昨年12月2日、大阪市内で行った講演のなかで「増え続ける医療費を抑制するためには、女性も定期点検を受ける必要がある」と発言。客席から「定期検診ではないか」と問われ、「私も定期検診といったはず」と強弁したという。
昨年9月12日には鳥取市内で開かれたタウンミーティングの席上、「母親は油圧シリンダーの力をフルに発揮して我が子を強く抱きしめて育てるべき」と発言。意味不明の発言に客席がざわめくと、「油圧シリンダーとは油圧の作用によって伸び縮みする装置で、筋肉に相当する。そんな常識も知らないんですか」と語ったという。
一連の問題発言が明らかになり、女性団体はさらに反発を強めているが、柳沢氏本人は「ニンゲンニハドウシテワタシノキモチガツタワラナイノダロウ。ピー」と不満を込めた警報ブザーを鳴らしている。
2007/2/1日ハムリーグ優勝に戸惑いも広がる
25年ぶりのリーグ優勝を決めた北海道日本ハムファイターズの本拠地・札幌で期待が膨らむと同時に戸惑いが広がっている。札幌市民にとり、本格的なプロスポーツの「日本一」は未知の体験だからだ。早ければXデーは10月25日。それまでは手探りの毎日が続きそう。
市内を流れる豊平川の水面を橋の上からおそるおそる眺めるのは、近所で居酒屋を営む松田礼一さん(52)。もともとは「ビールを飲みながらテレビでナイターを見る程度の巨人ファン」だったが、地元のチームを贔屓にする熱狂的な野球ファンへのあこがれは昔からあり、広島や名古屋、福岡などの球場に何度も足を運んだ。日ハムがフランチャイズを札幌ドームに移してからは、見よう見まねで日ハムファンになりきった。ドーム内野席の最前列で、オレンジ色のはっぴを着て踊り狂う松田さんの姿は、何度もローカルのテレビ番組で紹介され、松田さんの営む居酒屋は「ファイターズ狂のオヤジが営み、ファンが集う店」として有名になり、それなりに繁盛した。
不安を感じるようになったのは、プレーオフ進出が決定し、常連客がうれしそうにつぶやいた瞬間からだ。「このままパリーグ優勝が決定して、日本シリーズで勝ったら、オヤジ、豊平川に飛び込まないとだめだよ。阪神が優勝したら、ファンは次々と道頓堀川に飛び込むって言うじゃない。プロ野球のファンって、きっとそういうものなんだよ。そうに違いない。なぁ?」
店に集まった客すべてがうなずくのを見た松田さんに「いまの豊平川は水が冷たいし、底も浅いから。死にたくない」とは言い出せなかった。「いまさら飛び込めませんじゃ、客が逃げていきますからね」。それ以来、豊平川にかかる橋をまわり、欄干から身を乗り出して川を観察する日々が続くが、水深が適度に深く、岸に近い理想的なポイントはまだ見つかっていない。
豊平川を管理する北海道開発局では「日ハムの札幌移転以来、飛び込みを見越して豊平川治水計画の抜本的な見直しを進めているが、こんなに早く日本シリーズ進出が決まるとは、正直予測していなかった。係官を大阪に派遣してデータを収集し、しゅんせつ工事で安全な飛び込みポイントを早急に確保することも検討している」と説明する。
川に飛び込むのはファンだけではない。札幌市の公園管理課は、1985年に阪神が優勝したさい、カーネル・サンダース人形が道頓堀川に投げ込まれた事件が、札幌で再現される可能性に注目する。プレーオフが始まった日からクラーク博士の銅像をがんじがらめに縛り付け、地面に固定している太い鎖が解かれるのは、熱狂的なファンの興奮が冷める年明けになりそうだ。
2007/2/1温暖化の影響、角界でも深刻
日本相撲協会の付設研究機関、心技体科学研究センターが、地球温暖化が角界に与える影響について予測をまとめた。相撲の姿が根本から変わる恐れもあり、国内で温暖化への関心が高まる契機になりそうだ。
同センターでは超高速計算ができる並列コンピュータ、「両国シミュレーター」を開発。最新データから世界の平均温度が1℃、5℃、10℃上昇したと想定して、角界への影響を予測した。
気候の変動をもっとも敏感に反映しそうなのは、まわしの幅。現在のまわしの幅は10センチ強だが、この状態でも股間に熱がこもって不快との声があることから、0.5℃の気温上昇で30%の幅削減を迫られそう。3℃気温が上昇すれば、まわしの幅は1.2センチ程度まで縮小するとみられている。幅を現在のまま保ったまま、材質を青銅や陶器に変更して納涼感を高める方向に進むと予測するむきもある。
力士の呼吸は、気温上昇とともに速くなる。3℃以上の上昇で、取り組みの内容にかかわらず花道を引き上げたあとの力士は息があがった状態となる。このためテレビの相撲中継の勝利者インタビューはアナウンサーとの会話が事実上不可能となり、勝利が予測される力士への取り組み前のインタビューに変更される公算が大きい。「横綱の胸を借りるつもりで何も考えないでぶつかったことが金星につながった、と言えるようにがんばる」といった発言が予測される。
発汗量の激増は必至。気温が5℃上昇すれば、横綱の土俵入りのさいに脇を固める太刀持ちと露払いは、うちわ持ちと汗ぬぐいに変更されるとみられる。力士の体からしたたり落ちる汗で土俵が液状化する事態も懸念されることから、日本相撲協会では「ガタリンピック」の開催される有明湾に指導普及部長を派遣して、温暖化時代の新たな相撲の姿を模索する考えだ。
一方、一部の部屋はさらなる猛暑の到来に備えてごまだれ風味の「冷やしチャンコ」を開発。試食した若手力士を中心に人気を集めており、角界の一部では10℃温暖化待望論がじわじわと広がりつつあるのが実情だ。
2006/08/23傷心の旅? 月が離れていく
国立天文台の観測データから、月と地球との距離が次第に広がっていることが明らかになった。地球上の海水の満ち引きや天候などに大きな影響を及ぼすのは必至。突然の変化の理由がさまざまな憶測を呼んでいる。
約38万キロメートルだった地球と月の距離は今年1月ごろから徐々に広がりはじめ、8月15日の時点では約41万キロ。地上から肉眼で見る月の大きさに変化はほとんどないが、このペースが続けば2年後には現在の火星とほぼ同じサイズになるという。
月が遠のいている理由としては、小型だがきわめて重いブラックホールが衝突して月がこれまでの軌道を外れた、太陽風に何らかの原因で月だけが強く反応している、などの説が唱えられているが、いずれも決め手を欠く。最近になって関心を集めているのは、「傷心説」だ。
「これまでは9個とされていた惑星の数を見直す動きがある。国際天文学連合が検討している新しい定義によれば、12個まで増加しそうだ。地球の周囲で長く下積みを続けてきた月の心中は察するに余りある」と、国立天文台の森井亮子研究員は語る。付き人としての地味な働きを評価されなかった月が、自立の道を歩んでいるというのだ。
注目されるのは、地球上の環境への影響。潮の満ち引きを左右する最大の要素である月が遠のけば、大規模な洪水が発生したり、潮流の変化で気候が激変するおそれもある。天文学者の一部は、スペースシャトルを改造してコメディアンのすわしんじ氏を月面に送り込み、説得にあたらせるべきだと主張しているが、逆効果との見方が大勢を占めている。
2006/08/17古墳の管理権、「先進国」に移転?
「人類が共有すべき歴史遺産がいま、瀕死の危機に直面している」――ロンドンの大英博物館、パリのルーブル美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館が連名で、日本の古墳の管理権を引き渡すよう要求する声名を発表した。
これらの「世界三大ミュージアム」は、日本の文化庁による不適切な管理の結果、キトラ古墳と高松塚古墳の石室内でカビの大発生やしっくいの劣化などが多発したと指摘。「今後も日本人に管理を任せておけば、20年以内に日本国内のすべての古墳が文化財としての価値を失ってしまう」と警告している。
大英博物館にはパルテノン神殿の彫刻群、スフィンクスのひげ、ルーブルにはミロのビーナス、メトロポリタンには後期アッシリアのラマッス像など、19世紀から20世紀前半にかけてエジプトや中近東、ギリシャなどから持ち込まれた貴重な文化財が多数所蔵されている。文化財がもともとあった国では返還要求運動が起きているが、三大ミュージアムはいずれも、保管技術の水準が低い国に返還すればたちまち劣化して人類共通の財産が失われてしまうとして応じていない。
今回の声名は従来の主張に沿ったもの。「ミロのビーナスはいまも180年前に発見された当時と変わらない美しさを保っている。高松塚古墳の飛鳥美人は発掘から30年でシミだらけ。すぐに大回廊に移転しなければ『飛鳥不美人』になってしまう」と、ルーブルのキュレーターは語る。
河合隼雄文化庁長官は「いにしえのロマンを今に伝える古墳は手放せない」と拒否の姿勢を示しているが、三大ミュージアム側では手垢のついた表現の使用が石室内の状況を悪化させるおそれがあるとして、再考を強く求めている。
2006/05/24
油圧ショベル悪用のATM泥棒に抜本策
日本建設機械工業会は油圧ショベルを使ったATM盗難事件が全国で多発していることを重くみて、2008年以降に国内で生産される油圧ショベル全機種に良心回路を取り付けることを決めた。銀行やスーパーのATMコーナーに接近したことを感知すれば、自動的にエンジンが停止するようにする。1970年代から開発が続けられてきた良心回路が実用化される初のケースとなる。
油圧ショベルでATMを壁から強引に引きはがし、トラックで別の場所に運んでから解体、内部の現金を奪う手口の犯行は、2000年3月に埼玉県で初めて発生して以来、これまでに78件起きている(警視庁調べ)、ワイヤーを取り付ける場所を間違えてATM以外のスーパー全体を動かしてしまった2件を除き、犯人はすべて未検挙のままだ。
抜本的な犯行防止策が講じられていないこともあり、油圧ショベルへの風当たりは強まる一方。一部の地域では保育所や幼稚園に、砂場で遊ぶ幼児に油圧ショベルを連想させる片手での砂掘り、砂かけ動作を行わないよう指導する動きが広がった。同工業会が毎年行っている「建設機械理想の上司アンケート」では今年、長年1位の座を保ってきた油圧ショベルが、クレーン、ブルドーザーのほかモーターグレーダーやアスファルトフィニッシャーにも抜かれ、5位に転落した。
これまで良心回路を使ったATM盗難の防止策を検討してきた同工業会では、センサーやソフトウェアの進歩で充分な効果が上げられるメドはついたと判断、08年からの全面導入を決めた。しかし、識者の一部は良心回路の弱点とされた超音波による誤動作は解決されていないと指摘。良心回路装着後、住民の期待を一身に受けて土砂崩れ現場の復旧工事にあたっていた油圧ショベルが、近くのスピーカーから超音波が発せられた途端に、もがき苦しむように車体を左右に振りながら最寄りのATMに向かって暴走したとの報告もある。
2006/05/15
月例経済報告、15年ぶりの太ゴシックへ
内閣府は近く発表する2月の月例経済報告を、1991年5月以来、約15年ぶりに太ゴシック体で記述する方針を固めた。設備投資に続いて個人消費も順調に回復しているため。国内景気がビジュアル的にも力強さを増している。
月例経済報告はバブル崩壊後の92年7月からゴシック体から明朝体に変更されたあと、楷書体、草書体と弱化が続いたものの、95年8月の経済報告が超極細手書きペン字体で「もののあはれ」を綴ってからは回復基調に転換。04年2月には旺盛な設備投資を背景にゴシック体を回復した。その後は原油高、中東情勢の不安、個人消費の伸び悩みなどから太ゴシック体を目の前に足踏み状態が続いていた。
今後、東北や四国などでも景気が回復し、全国的な規模で雇用情勢が改善すれば、1986年8月以来の極太ゴシック体が使われる可能性も。経団連の奥田会長は16日、バブル以上の好況が訪れる可能性に備えて、モリサワに超ウルトラ極太POP体の開発を早急に進めるよう要請する考えを示した。
一方で学識研究者などからは、急速な字体の肉太化が再度のバブル崩壊を引き起こすと懸念する声が強まっている。独立行政法人国立印刷局も、月例経済報告印刷時の金インクの使用には依然として慎重だ。
2006/02/18
トリノ五輪関係の報道を自粛
報道各社は協定を結び、16日からトリノ冬季五輪関連の報道を全面的に自粛している。五輪開始前の過熱した報道合戦のなかで「メダルの有力候補」と紹介され、プレッシャーを感じた選手の成績が低迷するなか、報道機関への批判が高まっているのが理由だ。
日本民間放送連盟の鈴木謙蔵会長は14日の定例記者会見のなかで、「選手たちが競技に集中できない状況を作り出したのだとしたら申し訳ない」と語り、トリノ五輪での日本選手の成績低迷の責任がマスコミにもあるとの認識を示した。新聞各紙も社告のなかで、特別調査委員会を設置して五輪の事前報道が選手の実力を正確に反映していたかどうか検証する方針を明らかにしている。
学識経験者からは、行き過ぎた自主規制は言論の自由の観点からみて問題との声も上がっている。一部の在京テレビ局はワイドショーのなかで選手を仮名で紹介、顔にモザイクをかけ、声を変えて個人が特定されないようにして報道を続けたが、紹介された選手から「親戚にばれてしまい、必要以上の緊張を強いられて転倒した」との苦情が寄せられたため、結局は全面的な自粛を余儀なくされた。
自粛がいつまで続くかは不明だが、年齢制限のためにトリノ五輪に出場できなかった女子フィギュアスケート選手の浅田真央選手が練習しているスケートリンクからは多くのマスコミ関係者が忽然と姿を消し、次のバンクーバー大会に向けて金メダルの期待が早くも高まっている。
2006/02/17
米農務省、金メダリストをキャンペーンに起用
米国農務省は、トリノ五輪の男子スノーボード・ハーフパイプで金メダルを獲得したショーン・ホワイト選手を、日本市場向け牛肉販売キャンペーンに起用すると発表した。キャンペーンのコピーは「食ってるものが違う」。日本のテレビで放送される予定のCMでは、豆腐を食べたあとスノーボードでミスを連発する日本人と、ビーフステーキにかぶりつきながら大技を次々と成功させるホワイト選手が対照的に描かれる。
ジョハンズ農務長官は16日、ワシントンで日本人記者を集めて開いた記者会見のなかで「危険が伴うスノーボードのような競技で、臆病な人間が勝つのは難しい。ある程度の狂気が必要だ。チキンじゃなくてビーフだよ」と語り、米国産牛肉の効能を強調した。米農務省筋では、遅くとも2月末までには「Beef, Super Energy」のステッカーが貼られた米国産牛肉を日本の小売店に並べたいとの考えを示している。
2006/02/17
少子化対策、抜本的に見直し
政府の少子化問題対策諮問会議が中間報告をまとめた。経済的な誘因を用意したり、母親が子育てしながらでも働きやすい社会をつくるといった従来の手法では効果が上がらないことを認め、対策の方向を根本的に改める内容だ。
中間報告は、少子化の原因が親や社会ではなく、子どもそのものにあるとの現状認識から出発している。諮問委員のひとり、立教大学の戸橋忠夫教授らのグループが、子どもを作ろうとしない20〜30代の夫婦2580組を対象に行ったアンケート調査では、76%もの夫婦がその理由について「子どもは手がかかるから」と答えた。具体的には「食べ物を吐き出す」「夜泣きする」「おもらしする」「意味不明なことを言う」などの行動を不安視する夫婦が多かった。
「つまり少子化、さらには日本社会の不安定化を引き起こそうとしているのは、身勝手な子どもたち。親や社会の責任を追及する従来の手法は間違っていた」(戸橋教授)
家電製品に詳しい暮らしアドバイザーの吉田紀子さんは、家事の自動化が進んだ結果、子育てが突出して面倒になっていると指摘する。
「戦前はかまどから離れず、煙で目を真っ赤にしてご飯を炊くのが当たり前だった。いまなら電子炊飯器のスイッチを押すだけ。洗濯も掃除もラクになった。子育てはおむつが布製から紙製に代わったくらいで、あとは50年前、100年前とほぼ同じ。自助努力をしない子どもたちの責任を直視すべき時代ではないか」
諮問会議では、少子化に歯止めをかけるためには伝統的に黙認されてきた子どものモラル・ハザードに待ったをかける必要があるとの見方で委員が一致。また、近所や保育園といった地域社会では、親の不安を駆り立てる子どもの悪質な夜泣きやわがまま、嘔吐やかんのむしを防ぐことはもはや限界との判断から、「子ども懲罰官」制度の整備も中間報告に盛り込まれた。
制度のしくみについては、夏に予定される最終報告のとりまとめに向け、専門家の意見も取り入れつつ意見の集約が行われる。委員の高本光・千葉大学教授は、「子どもに心理的な側面から教訓を与えるために、懲罰官は赤いマスクを着用し、子どものいる家一軒一軒を巡回して『悪い子、泣く子はいないか』と尋問する手法が望ましい」と話している。
2006/02/13
マンション、地震以外でも倒壊の可能性
マンションの耐震強度に関する書類が偽造されていた問題で、国土交通省が発表したよりも一部の建築物の強度が不足していることが明らかになった。
震度5程度の地震で倒壊するおそれが指摘されていたマンションやホテルは合計13棟。専門家や地方自治体による調査の結果、このうち5棟は室内でのブレンバスターでも倒壊する可能性があるという。プロレス解説者の山本小鉄さんは「投げっぱなしはとくに危険。プロレスごっこでも当面は構造に大きな衝撃を与える投げ技を自粛する必要がありますね」との見方を示す。
このほか、マンション2棟ではくしゃみをしただけで倒壊する危険があることも判明した。これらのマンションでは入り口で警官が住民の所持品検査を実施し、コショウが見つかった場合には没収している。このマンションが次の花粉症シーズンまでに倒壊するのは確実とみられ、住民からは早期の建て替えを求める声が上がっている。
最も脆弱なホテル1棟では、崩し将棋で駒をとるのに失敗した瞬間、轟音とともに建物全体が崩れ落ちる可能性が指摘されている。ホテル従業員の一部は倒壊を恐れて退職し、付近の住民も多くが転居したが、ホテルには全国各地から腕に覚えのある崩し将棋のマニアが集結し、宿泊率は連日100%を維持している模様だ。
2005/11/26
外来語の言い換え提案
国立国語研究所の外来語委員会が、23語の言い換えについて第5回中間発表を行った。過去の中間発表で言い換え語を提案済みのものについても、より日本人に親しめる表現を盛り込んでおり、定着するかどうかが注目される。
今回の中間発表では、「高揚した状態から安定した状態にゆるやかに移行すること」を意味する外来語の「ソフトランディング」を、「あれ」に言い換えるべきとの考えが示されている。これまで言い換え語は「軟着陸」とされていたが、月面着陸から四半世紀以上が経過して「軟着陸」もなじみが薄れたため、より人口に膾炙した「あれ」が望ましいと判断した。
「ナノメートル単位の非常に微細な技術」を意味する「ナノテク」は、従来の「超微細技術」ではなきく「なんとか」に言い換える案が示された。国語委員会が、実際に「ナノテク」という言葉が日本語の会話のなかでどう使われているかを調査したところ、「えーと、なんとかっていうんだよなぁ」などと言い換えられている実例が数件確認されたためだ。
「ワークシェアリング」、つまり「仕事の分かち合い」の言い換え語としては、「えーと、ここまで出かかっているんだけど」と、自分の鎖骨のあたりを指さす動作の組み合わせが提案された。同じ言葉と喉ぼとけを指さす動作の組み合わせは「デポジット」、同じ言葉とあごを指さす動作の組み合わせは「クライアント」の言い換え語として望ましいとの見解も初めて示された。
今回の中間報告に盛り込まれた表現を組み合わせれば、たとえば「バイオテクノロジーに基づくメディカルチェックをネグレクトしたためレシピエントとドナーの双方がトラウマを負った」は、「いつものあれがこれしてそうなったから、例のホレ、かくかくしかじかになった」となる。
外来語委員会の大野賢二委員長は記者会見を、「過度な外来語の使用は日本語の言語文化の混乱につながるため、今後も分かりやすく普及しやすい言い換えを提案していきたい」との意味を込めた「じゃ、そーいうことで」で締めくくった。
2005/10/13
村上ファンド、国技にも触手
村上世彰氏の率いる投資ファンド(通称・村上ファンド)が、日本相撲協会の年寄株、105株のうち約39.77%にあたる42株を取得していたことがわかった。村上氏が今後、東京証券取引所での年寄株上場を主張する可能性もあり、親方衆は対応に苦慮している。
村上ファンドが年寄株所有数で出羽一門、二所一門などを上回り、筆頭年寄株主になったのは確実。理事長改選時には村上氏が理事長ポストを手に入れられる状況だが、村上ファンドの関係者は、純粋な投資が目的であり、協会の運営に口出ししたり行司の軍配に物言いをつけたりするつもりはないとしている。
北の湖理事長をはじめとする協会幹部は、村上氏側と交渉の場を設けて接点を探る構えだが、交渉が決裂すれば村上ファンドの所有する年寄株がK-1や新日本プロレスなど外部の格闘技団体に転売されるとの観測もある。また、村上氏が大手投資銀行のHSBCを通じて、米プロレス大手のWWEに対し年寄株の転売を打診しているとの情報もあり、さじき席では今後の交渉の行方によっては力士の国際化に続いて角界資本の国際化が一気に進展するとの見方が広がっている。
向正面の武蔵川親方(元横綱三重ノ海)が注目するのは、ほかの村上ファンド系企業との提携の可能性だ。「たとえば大阪府立体育館まで線路が敷かれ、3月場所の土俵に阪神電鉄の通勤電車が上がれば、横綱大関陣を蹴散らして電車道を突き進むのは確実でしょうね」
2005/10/13
地球温暖化で57年ぶりの異常事態
最後の打者のバットが宙を切った。ゲームセット。その直後、太平洋に浮かぶ珊瑚礁の国ツバルでは、モミファツ・ヘンガポンカ首相が舌打ちして、NHKの衛星放送を映していたテレビを消した。
ツバルの標高は最も高いところでわずか2〜3メートル。現在のペースで海面上昇が続けば、今後数年で国土の大半が水没する。全国民の他国への移住が真剣に論じられるほど、この国にとり地球温暖化は深刻な問題だ。
「あの椰子の木。あそこには5年前まで小島があったのに……」
ヘンガポンカさんが指さした先には、海の中から突きだしている椰子の太い幹があった。海面上昇でツバルの領土が少しずつ浸食されている証拠だ。
地球の温暖化が、ツバルの島民や世界中の研究者が考えていたよりもはるかに速いペースで進んでいることを示すニュースが日本から飛び込んできたのは、昨年の夏のことだった。
「ホッカイドウの高校生が、コウシエンで優勝したらしい」
外務大臣から報告を受けたヘンガポンカ首相は、背筋の凍る思いがしたという。同時にそれは、かねてから恐れていた事態でもあった。
日本スポーツ界最大のイベント、全国高校野球選手権大会で、真紅の優勝旗は「白河の関」を超えないものとされてきた。過去、数え切れないほどの強豪校が東北地方から甲子園に登場し、敗れてきた。東北のさらに北にある北海道の代表校にとっては、長い間、甲子園で1勝することだけが目標であり、優勝など望むべくもなかった。北海道大学低温研究所の青田信也教授は、北国特有の事情を、こう説明する。
「最大の理由は、北海道の気候だった。冬季に雪が降り、グラウンドが凍結する北海道では、練習時間がどうしても短くなってしまう」
気温と野球の強さの関係を示すデータがある。昭和30年代、北大低温研が行った実験によれば、気温プラス30℃での野球選手の活動量を100とすれば、15℃では65、5℃では23となり、マイナス10℃では8、マイナス40℃では0となる。しかも、いったん0となった活動量は、たとえ気温が再び上昇しても0のままだ。
状況が変わったのは、約10年ほど前から。二酸化炭素濃度の上昇で北海道でも冬が暖かくなった。雪が減り、冬季でも野外での練習が可能になった。駒大苫小牧高校をはじめとする学校の実力は気温に比例するように強まり、その打率、ホームランの数、防御率といったデータは、地球規模の気候変動の証左として世界中の気象学者に注目されるようになった。「2010年代には北海道代表が優勝する可能性を否定できない」――そんな衝撃的な内容の論文も学会誌に掲載された。
そして昨年夏、真紅の優勝旗は白河の関と津軽海峡を超え、初めて北海道に渡った。水しぶきを上げて崩れ落ちる巨大な氷山、海水温度の上昇のために真っ白に変色したサンゴ、そして優勝決定に歓喜してピッチャーマウンドに駆け寄る駒苫ナイン。地球温暖化を象徴するイメージが、一つ増えた。
「ホッカイドウの高校生のがんばりはよくわかる。しかし、このまま我が国が波に浸食されていくのは我慢できない。だから今年は1回戦から駒苫の対戦チームを応援したのだが……」
悔しそうに語るヘンガポンカ首相の抱く危機感は、さらに膨らむ。先進国や経済発展の著しい中国やインドといった発展途上国が地球温暖化ガス抑制に本腰を入れない限り、駒苫の偉業は2連覇では終わらない可能性が高い。一部の野球評論家や気象学者は、温室効果ガスの排出量が早急に1990年の水準に抑制されなければ、駒苫が読売ジャイアンツに勝つのは時間の問題とみる。
今後の駒苫の強さを大きく左右するのは、世界最大の二酸化炭素発生国でありながら京都議定書を批准していないアメリカの出方だ。青田教授は、スパコンによる気候変動のシミュレーション結果をもとに、アメリカにとっても遅かれ早かれ、地球温暖化が「他人事」でない日が訪れると予測する。
「このままのペースで気温の上昇が続けば、ワールドシリーズの覇者が5年以内に駒苫に簡単に負けるかもしれない」
2005/8/21
政府、紫外線対策に本腰
厚生労働省はメラノーマなど皮膚がんの増加を重く見て、皮膚に有害な紫外線の発生源である太陽を完全撤去する方針を固めた。近く医師、生理学者、宇宙飛行士などからなる専門家会議を立ち上げ、2015年をめどに完全撤去を目指す方針だ。
紫外線についてはかねてから皮膚がんの誘因であることが指摘されているが、これまでの対策は日焼け止めを塗る、日差しが強い時間の外出を控えるといった消極的なものが中心で、被害を完全に防ぐことは困難だった。昭和60年代には一部の国会議員が問題の根本的な解決をめざし、太陽撤去法案を提出しようとしたものの、労働界から雇用に深刻な悪影響が及ぶとの反対が出て立ち消えになった。太陽エネルギーの用途が幅広いために、健康への悪影響が軽視されてきたとの指摘もある。
これまで太陽の撤去に慎重だった厚生労働省の姿勢が変化したのは、アスベストの規制をめぐり、旧厚生省、旧労働省、旧建設省などの官僚の「不作為」が批判を集めているため。将来、太陽禍が広がったさいに責任を追及されるのを未然に防ぐ狙いがあるとみられる。
しかし、太陽の撤去が難航するのは必至。作業員の健康被害が懸念されるほか、撤去した太陽の行き先も問題だ。撤去後の太陽は核廃棄物とみなされるため、最終的な処理の方法としてはは大深度地下での長期保管が有力。厚生労働省が水面下で行った打診には大半の都道府県が拒否反応を示したが、一部、温泉街おこしに太陽を利用したいと申し出た自治体もあるという。
2005/8/16
外来生物法、不安のなか施行
6月1日、特定外来生物被害防止法(外来生物法)が施行された。ブラックバスをはじめとする外来生物の駆除への期待が高まる反面、施行の日を不安な気持ちで迎えた人も少なくない。
「こんなザル法では外来生物の侵入は食い止められない」。焦燥感を表情に浮かべるのは超党派の国会議員でつくる「外来生物から日本を守る会」の代表、高坂功参議院議員だ。「このままでは、日本は外来生物に占領されてしまう」
外来生物法の審議の過程で焦点になったのは、「外来生物」の認定方法と具体的な動物の種類。一方、守る会が主張していたのは将来日本に上陸するかもしれない外来生物を駆除する体制の整備だった。
守る会の事務所があるビルの屋上で、高坂氏は青空に向けた双眼鏡を握る手に力をこめた。
「明日、いや今日にだって外来生物がやってくるかもしれない」
一枚のリストがある。「榴弾砲、戦車、対空ミサイル……」。守る会が環境省に提出した外来生物駆除のための装備品だ。備考欄にはこんな一文も見える。「将来的にはわが国も核武装することが望ましい」
強力な火器の導入は結局外来生物法の条文に盛り込まれなかったものの、守る会の政府首脳に対するねばり強い働きかけが実り、環境省の傘下に地球防衛軍が新設された。初代地球防衛長官に就任した小池百合子環境大臣は1日の発足式で、真新しい濃緑の軍服に身を包んで訓辞を述べた。
「ブラックバスに食い殺されたイワナやヤマベの轍を私たち人類が踏まないためにも、地球外生物はきちんと駆除していきたい」
しかし地球に将来侵入する生命体の数、生態、大きさなどは不明のままだ。環境省職員5人からなる地球防衛軍と、捕虫網、注射器、赤いボトルの殺虫剤、緑のボトルの保存液のセットだけで人類防衛は可能なのかどうか、今後も専門家、活動家の間で熱い論議が続きそうだ。
2005/6/5
クレタ人問題で特別委員会
ギリシャ政府は25日、クレタ島民による発言の信憑性を検証する特別委員会の設置を決めた。今年末までにまとめられる報告書の内容によっては、クレタ人のアイデンティティーが根底から覆される可能性もある。
「クレタ人はみんな嘘つきだ」
紀元前500年ごろ、アテナイのエピメニデスによって提示されたこの主張については、約2500年以上にわたって論争が続いているが、エピメニデス自身がクレタ人であったことからまだ決着をみていない。同じころビタゴラスによって提示された「直角二等辺三角形の底辺の長さの二乗は、他の二辺の二乗の和に等しい」との仮説が、その後の徹底的な測定の結果、定理として定着したのとは対照的だ。
クレタ人の誠実さについては今日でも諸説があり、島民の暮らしや経済にさまざまな影響を及ぼしている。たとえば、クレタ企業に対する貸出金利はまちまち。金融機関が「クレタ企業の財務諸表は全部嘘だ」派と「『クレタ企業の財務諸表は全部嘘だ』というのは嘘だ」派に分かれているのが原因だ。このためギリシャの金融市場では、早くから政府に特別委員会の設置を求める声が出ていた。
問題はギリシャ国内だけにとどまらない。1960年代にはアメリカのクレタ系移民団体が「インディアンは嘘をつかない」との見解を示したことに全米先住民協会が「民族の誇りを傷つけられた」と猛反発。両者の間で武力抗争が頻発した時期もあった。
それだけに特別委員会への期待は大きいが、調査が島民の協力を得られるかどうかは未知数。全てのクレタ島民が成人を迎えると同時に行う「ほんとのこと言ったら針千本飲ます」との宣誓が足かせになるおそれも指摘されている。
2005/5/29
ほかにも「粉飾」 カネボウ上場廃止へ
東京証券取引所の臨時取締役会は、6月13日付けでカネボウの上場を廃止することを決めた。総額2150億円の粉飾決算に続いて、虚偽の人生観を掲げていたことが明らかになったため。ブランドに再び傷がつくことは必至で、産業再生機構と取引銀行の支援を受けて進められている同社の再建に深刻な影響を与えるとみられている。
カネボウは1970年代まで「For Beautiful Human Life」というコピーを掲げていたが、粉飾決算が判明したことを受けて経営内容を調査した関東財務局によれば、人間の人生が美しくなる可能性は極めて低く、カネボウの旧経営陣もこれを知っていながら無責任なコピーをマスコミを通じて垂れ流ししていた疑いが濃い。
カネボウは名門の繊維メーカーだが、いち早く経営多角化に取り組み、最盛期には繊維のほか化粧品、食品、石けん、医薬品などを生産していた。コピー通りの美しい人生を信じてカネボウのガムを食べ、薬を飲み、化粧した消費者も多かったとみられるが、その後ユーザーの人生が多少なりとも美しくなったかどうか、カネボウではまったく検証を行ってこなかった。ある栄養士は「ホームラン軒を食べて幸せになれるというのはまったくの夢物語」と切り捨てる。
カネボウの当時の経営陣は、「消費者をだますつもりはなかったが、意味がうまく伝わらなかった面はあるかもしれない。最初から意思伝達を放棄した『ダーバン セレゴンスデロムモデアン』を見習うべきだった」とコメントしている。
2005/5/13
普通の愛じゃ満足できない
「子どもは『お国』のためにあるんじゃない!」
5月のある日曜日、東京の代々木公園で教育基本法の改正に反対する集会が、開かれた。参加者は全国の教員、労組関係者、市民活動家など約5500人。彼らが危機感を募らせるのは、教育基本法を改正して愛国心を教育の現場に持ち込もうとする動きが加速しているからだ。
同じころ日本青年館には約4000人が集まり、教育基本法改正の必要性を強くアピールしていた。
「相次ぐ青少年犯罪も児童の学力低下も、原因はすべて愛国心の欠如だ!」
改正反対派、賛成派いずれの動きも、新聞やニュースによって報じられ、社会の注目を集めている。しかし、同じ日の午後、豊島区内にある小さな公園に400人ほどのグループが集まっていたことを知る人はほとんどいない。スーツ姿、Tシャツにジーンズ、和服、男性なのにウェディングドレス……。その服装からからわかる通りメンバーの顔ぶれはさまざまだが、主張は一貫している。
「愛するだけじゃ満足できない!」
ひときわ大きな声で叫ぶのは、集会を主催した日本異常執着者連絡会議(日フェ連)の代表、鞆田信也さんだ。
「君が代を歌うとか、日の丸を掲げるとか、そんな普通の方法じゃ私たちの日本への愛はぜんぜん表現できないんです」
愛国心をめぐる議論の焦点の一つが、国への愛のかたちだ。日本を愛するとは、天皇を尊敬するということなのか。戦前に日本がとった行動の肯定なのか。それとも「戦後民主主義の成果」の尊重なのか。愛国心は郷土愛の延長線上に位置するものなのか……。
熱い論議が繰り広げる政治家、学者、活動家に、日本に異常執着する人々は完全に無視されている。それだけに、鞆田さんの声には力がこもる。
「普通に愛するだけじゃだめなんです。狂おしいほどに愛さないと、21世紀の日本が抱える問題は解決しません」
日フェ連は昨年秋まとめたパンフレット「フェチ国心のすすめ」のなかで、漠然と日本を大切にするのではなく、地方や分野を限定したうえで深く掘り下げて国を愛するよう提唱している。
日フェ連の創立メンバーの一人、萩誠一郎さんは日本一細長い半島として知られる佐田岬半島の先端から数十メートルの家に暮らす。
「北海道の知床半島、石川県の能登半島、鹿児島の大隅半島。各地を転々としました。地方によって風情はさまざまで、それぞれ魅力があるのですが、やはりこの佐田岬半島がいちばん愛おしいですね」
なぜ佐田岬半島がいいのか、と訪ねた途端、萩さんの頬がみるみるうちに紅潮した。
「この細ながぁいところが、好きっ。好きったら好きっ」
半島の先端、佐田岬では現在、萩さんが25年をかけて集めた2万8000点のコレクションを展示する「ハイヒール博物館」の建設が進む。
「完成すれば、佐田岬半島は一段と美しくなるはず。この地に上陸しようとする敵対勢力は容赦しません」
鞆田さんによれば、日フェ連の会員は現在でこそ少数だが、自らの異常執着傾向に気づいていない人も含めれば、日本の特定の地方を命をかけて守ろうとする人の数は120万人に達する。現在の自衛隊の約5倍の規模だ。とくに奥飛騨には異常執着者が集中しており、予選会が行われるほどの人気ぶりだという。
2005/5/12
スライド式定規、世界各国で発見される
世界各地のメーカーや研究機関の備品室などに、類似した形状のスライド式定規が保管されていることが明らかになった。1970年代ごろまで使用されていたとみられるが、用途や使い方は謎のままで、さまざまな憶測を呼んでいる。
スライド式定規は2本の定規がスライドする構造になっており、別にやはりスライドするカーソルがついている。特徴的なのは、定規に刻まれている目盛りの一部が等間隔でないということだ。
東京都大田区内の機械部品メーカー、横尾産業の設計室でスライド式定規が発見されたのは昨年11月。3代目社長の横尾和也さんが業績低迷と後継者不在を理由に廃業を決め、会社の備品を整理しているとき、ロッカー奥のダンボール箱のなかから見慣れない道具が出てきた。同じ箱に入っていた書類の日付から判断して、1972年前後にしまわれたものらしい。
横尾さんが父親から経営を継いだのは1975年のことで、このスライド式定規は覚えていない。自宅に持ち帰り、今年85歳の父親に聞いてみると、父親は慣れた手つきで定規やカーソルをすべらせ始めた。感触に記憶はあったが、名前と使い方は思い出せなかった。父親がスライド式定規を持って訪ねたかつての部下や同業者も、異口同音に答えた。「ここまで出かかっているのに……」
横尾さんがホームページで情報を募集したところ、全国から発見の知らせが寄せられた。同じようなスライド式定規が、物置や箱のなかで長年眠っていた。知人に依頼してホームページを英訳してもらうと、世界45カ国からメールが届き、この道具が広く世界に分布していることがわかった。
「スライド式定規」とは、横尾さんが考案した仮の名前。「きっと正式の名前があるはず。まずはそれを突き止めたいですね」(横尾さん)。
使い方も、まだはっきりとはわかっていない。自らもスライド式定規を大学の備品室で発見し、横尾さんとともに謎の解明に取り組む東京工業大学教授の瀬川育男さんが注目するのは、電卓登場以前の計算技術だ。
「世界で初めて電卓が開発されたのは1964年。しかし大型航空機の開発、原子力発電所の建設など、大量の計算が必要なプロジェクトはそれ以前にいくつもあった。技術者にかかるストレスは並大抵のものではなかったはず」
スライド式定規は、計算の現場で活躍していたのではないか。そう信じる瀬川さんは、目を細めながら実演してくれた。
「こうやって伸ばしてからカドでトントンと肩を叩くと、とっても気持ちいいんですよ。リフレッシュしてから筆算に取り組んで効率を高めていたのではないでしょうか」
2005/5/10
地理の学力低下、浦安市で深刻
千葉県浦安市の小中学生の82%が、浦安市は東京都の一部と考えていることが明らかになった。地理の学力低下を象徴する現象として、教育関係者に衝撃を与えている。
浦安市教育委員会では今年1月中旬、市内の小中学校で地理の学力調査を実施。このほど結果を公表した。正誤式の質問で「浦安市の南部には『雷山』『空間山』がそびえている」が正しいと答える児童・生徒が78%に達するなど、地理全般について誤答が目立った。
所在地に関する誤解は長い間、千葉県成田市でも報告されていたが、2003年から状況が一変し、現在では小中学生の大半が「成田市は千葉県の一部」と正しく答えられるようになっている。
一方、岩手県では、9割以上の小中学生が「岩手県は中国西南部からネパール、インド北部にかけての高原部にある」と答えることが1960年代から問題となっており、県を挙げての啓蒙活動にも関わらず解決の糸口は見えていない。
2005/3/3
その歌の出自
上総・下総・常陸・信濃……。都から遠く離れた地で無名の人々が素朴な感情を込めて詠んだ「東歌」が数多く収められている万葉集の第14巻。次の歌もまた、作者の名前は現代に伝わっていない。
等夜(とや)の野に、兎ねらはり、をさをさも、寝なへ子ゆゑに、母に嘖(ころ)はえ
「等夜の野」とは現在の千葉県北部の地名。この地でウサギを狙っているかのようになかなか眠らない子だから母に叱られるのですという、親子の慈しみが伝わってくる温かい歌だが、日本消費者連合会の大羽咲子事務局長は「詠み人知らずなんて、まったく信頼できない」と手厳しい。
「トレーサビリティが全然機能していない危険な状態で、エキノコックスに感染しているおそれもある。作物に責任をもつ生産者なら、名前をはっきりさせるべき。『等夜の野』という原産地表示も偽装の疑いが濃い」
22日、東京・渋谷で連合会が「トレーサビリティ全国会議」を開いた。消費者運動家からは、食材の生産者、加工者、流通経路を追跡できるしくみ、トレーサビリティを文芸にも広げていくべきだとの意見が相次いだ。なかでも槍玉にあがったのが、約1300年にわたって作者不明の歌の数々を放置してきた万葉集だ。
「詠み人知らずの徹底排除を」「山上憶良の顔写真と連絡先が掲載されていないのはおかしい」。トレーサビリティの信奉者が壇上で声を張り上げるたびに、場内は拍手に包まれた。
万葉集の歌は、あるときは表意文字、あるときは表音文字としての漢字ですべての音を表記する万葉仮名で記述されているが、連合会の依頼を受けて講演した河野直久国学院大学教授(日本古典文学)は、強い調子で万葉仮名に潜む問題点を明らかにした。
「詠み人知らずの歌では表意文字の比率が高い。漢字がもつ本来の意味が生かされている。つまり中国語の漢詩としても意味が通じるということ。日本語の『歌』に似せた中国製品である可能性も否定できない」
同様の疑念は、童謡の研究者にも広がっている。
大きな栗の木の下で あなたと私 仲良く遊びましょ 大きな栗の木の下で
疑惑の目を向けられているのは歌詞に登場する「栗」。アメリカ産なのかヨーロッパ産なのか、天津産なのか、長い間専門家の論争に決着がつかなかったのは、原産地を尋ねようにも「作詞者」が「不詳」だからだ。
昭和音楽大学の相良友紀助教授(児童音楽教育)は、「実は殻のなかに半分しか入っていないのではないか? 虫に食われて黒ずんでいる栗が多いのではないか? トレーサビリティという概念が登場したおかげで、この歌の知られざる暗黒面にみんな気がついた」と語る。
そしていま、日本人のアイデンティティさえ時代の潮流に呑み込まれようとしている。食品評論家の前崎克郎さんは近く、成田空港から西の空に旅立つ。現地の女性と結婚して、ゆくゆくは国籍を取得する考えだ。
「これまで野菜や肉のトレーサビリティばかり語っていたが、振り返ると自分のトレーサビリティがせいぜい3世代前までしか確保されていないことがわかった。根源まで突き詰めれば、自分を含む日本人の祖先が朝鮮半島から来たのか、カムチャツカ半島やサハリンなど北方から来たのか、はたまた太平洋の島々から来たのか、まったくわからない。人類がどこからやってきたのか、エチオピアの高原でじっくりと考えたい」
2005/2/23
つかめ! ケータイすそ野ニーズ
東京、秋葉原の家電量販店。1階の歩道に面した携帯電話売り場に見慣れない黒い布が陳列されている。「ケータイ用かぶり布」――カメラ・アクセサリー・メーカーのエツミが先月末に発売した新製品だ。販売状況の視察に来た開発部長の大滝孝治氏が説明してくれた。
「携帯電話のカメラはどんどん性能が良くなっているのに、背後から光があたっていると液晶画面がよく見えず、狙い通りの写真が撮れません。そんなときにはこのかぶり布の中に入り、小さな穴から携帯のレンズ部分だけ外に出せば、光を遮断して構図やピント、露出をゆっくり確認することができるんです」
かつて、プロの写真屋にとってはこのかぶり布が必須の商売道具だった。たとえば修学旅行の記念写真。教員や生徒に立ち位置、視線を細かく指示し、準備が整ったところでかぶり布の中に顔を隠してピントや露出を調整してシャッターを押した。かぶり布の内部は、高度な撮影技術が駆使されるプロの世界だった。
その後、撮影器材の技術進歩の結果、かぶり布を見かける機会は減った。状況が変わったのは、携帯電話に搭載されるデジタルカメラが急速に高度化したためだ。「写メール」の画質にこだわるマニアックなユーザー層が生まれ、より理想的な条件での撮影を可能にする昔ながらの道具に関心が集った。
「夏の太陽の下では、1分かぶっているだけで汗だくになるかも。そういう苦労も、マニア心をくすぐるものだと思っています」(大滝氏)
外国の調査会社の調べによれば、2004年の携帯電話端末出荷台数は約6億6000万台に達した。単純な会話の媒体だったころ、世の中にそれまでは存在しなかった新たなニーズを創出していた携帯電話は、やがて、小さな機器のなかに豊富な機能を搭載することで、長い間それぞれの分野で既存の専門機器が満たしていたニーズを取り込んでいくことになる。
最初に餌食になったのは、腕時計だった。携帯電話が常時、液晶ディスプレイの片隅に時刻を表示するようになると、現代社会に生きる者なら必ず持っていなければならなかった腕時計が、「持っていても持ってもいなくてもいいモノ」に格下げされ、出荷量は大幅に減少した。いまでは多くのサラリーマンが時刻を確認するさい、袖のなかから手首を出さず、ポケットから携帯電話を取り出す。
「第二の腕時計メーカーになるかもしれない」。そんな危機感が、産業界の幅広い分野に広がっている。巨大な携帯電話市場に飲み込まれてユーザーを失わないためには、どうすればいいのか。メーカーの模索する道はさまざまだ。冒頭で紹介したエツミは、カメラが携帯電話の一部になるという時代の流れは変えられないと判断して、高度化した一部のデジカメ携帯ユーザーに照準を当てた商品を世に出した。その一方で、斬新な組み合わせで携帯電話端末メーカーに先制攻撃をしかけるメーカーもある。
神戸市内を高台から見下ろす位置に立つ慈恩会播磨灘記念病院。ビルの8階にある人工透析ルームには、14台のベッドが並ぶ。腎臓病などの患者が身を横たえ、血液中の老廃物を腎臓の代わりに機械が濾しとってくれるのを待っている。
病室内に「ピピピ」という着信音が鳴り響いた。ほかの病院と同様、播磨灘記念病院でも携帯電話使用は禁止されている。男性の患者が透析を続けたまま、人工透析機器を持ち上げて耳に寄せた。
「うん。いま、病院に来てるんだよ。夕食はうちに帰って食べるからね」
隣のベッドでは、別の女性患者がもう20分も電話で世間話を続けている。スーツ姿で人工透析機器に向かって株式売買を指示しているのは、証券会社の社員らしい。
医療機器を誤作動させるおそれのある携帯電話を病院内で使ってはいけないという「常識」が、医療機器の総合メーカー、ニプロが人工透析器付き携帯電話を開発する出発点になった。
「それでもこっそりとケータイを使っている患者さんはいるものです。腎臓はともかく、もうケータイなしでは生きられないという人もいるし……。携帯電話機器メーカーが人工透析機能をもたせた機種を開発するのは時間の問題です。それならいっそのこと当社でそういう商品を作ってみようということになったんですよ」(研究開発チーム主査 和田智之氏)
ニプロの人工透析器付き携帯電話は、電磁波を通さないシールドで透析器ユニットを包み込んでいるため、透析の誤動作を心配することなく、存分に長電話することが可能。患者からは退屈な透析時間が楽しくなったといった感謝の手紙が多数寄せられている。ニプロの成功に触発され、医療機器業界では耳鼻咽喉科治療ユニット付き携帯電話、大腸用内視鏡付き携帯電話、生命維持装置付き携帯電話の開発競争が繰り広げられている。この春にはレーザーメス付き携帯電話も登場する見通しで、患者だけでなく医者をターゲットにした新型機種の開発が一気に加速しそうだ。
台所用洗浄機器の老舗、亀の子束子(たわし)では、2003年春、本間正二朗取締役が新製品の開発プランを見て、部下たちを一喝した。
「これではだめだ。やり直せ」
そのイメージスケッチには、本間氏が赤いマジックで走り書きした「NG」の字が残る。アンテナ部分に、長さ2センチ、直径1センチほどのたわしを装着した「たわし機能付き携帯電話」。ある通信機器メーカーの提案に、亀の子束子が乗ったかたちだ。
「見た途端にぞっとしましたね。うちが作るたわしユニットは、デジカメやラジオ、MP3プレーヤーと並ぶ機能の一つに過ぎない。これでは無数のトゲでチクチクと存在感をアピールしても、いつかは埋没してしまいます」と、本間氏は当時抱いた危機感を回想する。
それから約2年。亀の子束子が社運をかけて開発した新製品「携帯電話付き亀の子たわし」が、この3月にも発売される。たわし性能はビビンバ用石鍋の洗浄に使えるほど本格的だ。一見、柄のように見える部分が防水型携帯電話ユニット。ボタンも液晶画面も小さく、携帯電話としての存在感はかなり薄い。「たわしとしても使える携帯電話」ではなく、「携帯電話としても使えるたわし」。従来の青写真と比較すれば、主役と脇役が完全に交代している。
亀の子束子は、携帯電話だけでなく、そのビジネスモデルさえもたわしのなかに取り込もうとしている。「携帯電話付き亀の子たわし」に続いて開発が進んでいるのは、台所の風景を撮影しながら皿を洗える「デジカメ搭載型亀の子たわし」だ。さらに、GPS搭載型、MP3プレーヤー搭載型機種の開発も急ピッチで進む。「最終的には、携帯電話にいま搭載されている機能をすべてたわしに盛り込むのが目標ですね」(本間氏)
亀の子束子の経営戦略は、消費者はどんな評価を下すのか。狙った通り、さまざまなプラスアルファ機能で需要を爆発的に増やすことができるのか。それとも結局は携帯電話の軍門に下ってしまうのか。その運命に、爪切り、靴べら、モンキーレンチ、しゃもじ、セロテープ台、とっくり、灰皿、鉛筆削り業界が注目している。
2005/2/15
警察庁、ながら運転の実態にメス
警察庁は道路交通法の改正案を早急にまとめ、今秋までの国会提出を目指す方針を固めた。昨年11月から始まった運転中の携帯電話使用に対する取締りで、ほかにも数多くの行為が運転中に行われている実状が浮き彫りになったため。「ながら運転」の危険な実態にようやくメスが入りそうだ。
専門家が早急に規制を強化すべきと指摘するのは、運転中の鼻くそほじり。なかなか届かなかった大きな鼻くそに指の先端が触れた瞬間、ドライバーは車の前方に対する注意力を完全に失うといわれ、事故発生の可能性が極端に高まる。年間にどれだけの人命が失われているのか、明確な統計はないが、全国で年に数件報告のある「なにか大きな宝物を探り当てたような表情を浮かべたままドライバーが即死した事例」が、これに該当するとみられている。
運動生理学者からは、運転中のヒンズースクワットも厳しく禁止する必要があるとの声が強まっている。現在、運転中のヒンズースクワットは事実上の野放し状態で、ドライバーが筋力増強に熱中するあまり、前方不注意になってしまう恐れがあるためだ。しかし、仮に道交法でヒンズースクワットが禁止されたとしても、マニアはベンチプレス、ネックスプリング、クマ殺しなど、抜け道を次々と考え出て身体の鍛錬を怠らず、いつまでも警察とのいたちごっこが続くとの悲観的な見方もある。
その一方で、運転中の安全を確保するための新製品開発も急ピッチで進んでいる。稚内市漁業協同組合では昨年冬、ハンズフリー式カニ鍋セットの試験販売を開始した。これまでの運転中のカニ鍋は、ドライバーが下を向くことが多く、同乗者にも危険をドライバーに伝える余裕がないなどの問題があった。同組合の稲葉澄夫理事長は、「ハンズフリー化で、運転中でも冬の味覚を気軽に味わっていただける。おしゃべりをしなくなるので、普通に運転しているときよりもむしろ安全」とアピールしている。
2005/2/2
マーク制定で振り込め詐欺防止
熟練犯罪者で作る日本高度犯罪連絡協議会(高犯協)は、振り込め詐欺など安易な詐欺犯罪の増加を重くみて、「マル犯マーク」を制定し、被害者になりやすいお年寄りに注意を呼びかけることを決めた。振り込め詐欺の被害がお年寄りだけでなく、従来型の犯罪者にも及ぶのを座視していられなくなったかたちだ。
高犯協によれば、振り込め詐欺事件の件数が増加するにつれ、従来型の詐欺、恐喝は減少する傾向にあるという。振り込め詐欺がマスコミに大々的に報道され、犯罪一般に対する警戒感が強まった結果とみられる。犯罪者業界全体でみた振り込め詐欺による収入減は、年間85億円に達するとの試算結果もある。
いわゆる「当たり屋」として前科26犯の実績を誇る加藤邦武さんによれば、仕事がやりにくくなったのは約3年前から。故意に若者の運転する乗用車にぶつかったあと、運転手を脅して親に電話をかけさせても、親は「ははぁ、これがニュースで言っていた振り込め詐欺というやつか」などと言い、治療費や慰謝料の振り込みを拒否するケースが増えているという。加藤さんは「こっちはケガを覚悟して車に飛び込んでいる。素人が安易な振り込め詐欺で客を奪っていくのは許せない」と憤慨する。
美人局の常習犯で、過去10年間のうち半分以上を刑務所のなかで過ごしてきた加藤清美さんも、素人がアルバイト感覚で手を染める振り込め詐欺に我慢がならない様子だ。「昔なら、関係をもったことを会社にばらしてもいいのかと書いて手紙を出せば、すぐにお金が振り込まれてきた。いまは、同じような手紙やメールが何十通も届くので、そのなかから私の手紙を探してもらうだけで一苦労。本物の脅迫であることを証明するためのホログラムを手紙に貼ることも考えている」
高犯協の吉川秋彦常任理事は、30年ほど前から企業を舞台に100億円規模の詐欺を繰り広げてきた。ベテランの目には、昨今の振り込め詐欺が、軽薄な時代の風潮を映し出しているように見える。「我々は数年をかけて準備を整えた。つかまるのを覚悟で、何度も相手と会った。苦労が多い反面、詐欺が成功したときの喜びも大きかった。振り込め詐欺はしょせんニセモノ。我々こそが本物の詐欺犯だ」
マル犯マークは、従来型の脅迫犯、誘拐犯、拘束犯だけが提示できる。ウソの被害や取引などをでっちあげてお金をだましとる振り込め詐欺は、マークの対象外。高犯協では、係員を金融機関のATMや窓口に配置して、お年寄りが多額のお金を振り込もうとしている場合には、マル犯マークの提示があったかどうか、確認するよう薦める方針だ。このほか、脅迫にしっかりとした裏付けがあることを証明する第三者機関の設置も検討している。
2005/01/28
NHK歪める政治圧力
寿永3年2月7日。足がすくむような崖の上から、源義経が平家軍を見下ろしている。のちに「一ノ谷の戦い」として歴史に刻まれることになるこの出来事が、源氏・平家、そして日本の歩む道を変えると、当の義経が意識していたかどうか――。
一方、義経を演じるタッキーこと滝沢秀明には、わかっていた。1年間にわたる大河ドラマの命運は、初回に放送されるこのシーンが、視聴者の心をつかむことができるかどうかにかかっている。「ボクが、単なる顔がかわいいアイドルから、本格的な俳優に変身できるかどうかも、この大河ドラマの出来次第だ」。演出家に指示されるまでもなく、タッキーの表情は自然と引き締まった。
が、タッキーの乗る馬の足元に並ぶ足軽たちからは、生死をかけた戦いに臨む者の心を包んでいるはずの緊張感が伝わってこない。事前にADが口を酸っぱくして注意したにも関わらず、隣の人と談笑したり、カメラのレンズを見据える者がいる。
演出家は舌打ちしながら、ロケの数日前、プロデューサーと交わした会話を思い出していた。
「頼むよ。画面の片隅に少しだけ映っていればそれでいいから。『出さなかったら、国会で予算通さない』ってセンセイが息巻いているらしいんだよ」
一ノ谷の戦いのロケが行われたのは茨城県の高萩海岸。この地域から選出されている自民党の代議士が、後援会の関係者をエキストラで使うよう、ねじこんだらしい。「地元をあげてロケに協力してるんだ。それくらいいいだろう」。はねつければ、郵政族で放送行政にもうるさい代議士が、NHKの予算に難癖をつける可能性は十分にあった。
当初は起用を強く拒否していた演出家も、最終的にはプロデューサーの言うとおりにせざるを得なかった。まあいい。どのみちエキストラたちは、画面に小さくしか写らない。視聴者は、義経の背後で右往左往する足軽など気にしないはずだ……。
演出家は、「義経」の初回が放送されたあと、代議士の後援会が大型テレビを囲んで酒宴を開いたことを知らない。地上波ではぼやけていたが、ハイビジョン放送の画面の片隅には、エキストラがカメラに向かって突き出したVサインが小さく映っていた。その夜、問題のシーンはDVDで数十回にわたり繰り返し再生され、800年以上前、一の谷で平家の軍勢を蹴散らした源氏勢にも劣らない喚声が、そのたびに上がった。
大相撲初場所は、横綱・朝青龍が初日から大関以下ほかの力士をまったく寄せ付けず、初日から危なげない内容で白星を重ね、13日目には早々と10度目の優勝を決めた。
その翌日から、テレビ中継の「主役」が変わった。NHKのアナウンサーは、関脇栃東が10勝目を挙げ、2度目の大関返り咲きを果たしたことを繰り返し紹介した。花を添えたのは14日目でようやく勝ち越してカド番を脱した大関千代大海。強すぎる外国人横綱は、もはや脇役程度の存在でしかない。
大相撲中継担当のチーフプロデューサーに、2人の自民党代議士から前後して電話がかかってきたのは、「この場所も朝青龍には誰もかなわない」との空気が、日本相撲協会やさじき席に広がった10日目の夜のことだった。関係者は、外国人力士を紹介する時間を増やし、日本人力士の説明に力を入れるよう強く要求されたと口をそろえる。
代議士のうち1人は、こう説明する。
「偏っている中継内容と知るに至り、NHKから話を聞いた。中立的な立場で中継されなければならないのであり、反対側の力士も当然、紹介しなければいけない。時間的な配分も中立性が保たれなければいけないと考えている、ということを申し上げた。NHK側も、中立な立場での中継を心がけていると考えている、ということだった。国会議員として当然、言うべき意見を言ったと思っている。政治的圧力をかけたこととは違う」
もう一人の代議士の姿勢は、さらに強硬だ。
「何をやろうと勝手だが、その偏向した内容を公共放送のNHKが流すのは、放送法上の公正の面から言ってもおかしい。NHKは教育テレビでやりますからとか、あそこを直します、ここを直しますから、やりたいと。それで『だめだ』と」
二人は、外国人力士の台頭に焦燥感をつのらせる「日本の前途と大相撲を考える若手議員の会」の幹部。二人の説明はその後、二転三転しているが、あるNHKの幹部は匿名を条件に、「政治家からのプレッシャーは、全盛期の武蔵丸のツッパリに匹敵するものがある」と証言する。
夜6時45分。7時のニュースの開始を15分後に控えたNHK放送センターのスタジオは、いつもと違う緊張感に包まれていた。
「そんなこと、できるわけがないじゃないですか」
放送中のソフトな口ぶりとは打って変わって、その女性気象予報士の声は怒りのあまり上ずっていた。
「そこをなんとか。宮崎県、いや宮崎市の周辺だけでいいんだ。晴れとは言わない。なんとか曇りにしてもらえないだろうか」
強力な低気圧の接近の影響で、九州の明日昼ごろの天気は、大荒れになる可能性が高い。降雨確率は100%。それを曇りにしてくれと、放送総局長がいまにも土下座しそうな情けない顔つきで、自分の娘よりも若い予報士に頼んでいるのだ。
「どうしてなんですか? まず、その理由を教えてください」
「そ、それは……」
明日の午後1時から、宮崎県内で自民党の有力代議士の後援会が、支持者と家族を開いてイモ掘り会を開く。万一、雨になれば求心力が低下しかねない。それでなくても、前回の総選挙では民主党の無名の新人に、数百票差のところまで追い込まれたのだ。「だから、明日はなんとしても晴れでないと困るんだよ。予算のほうはこっちでなんとかするから、よろしく頼むよ」とだけ言って、その代議士は携帯電話を切ったと、放送総局長には言えるはずもなかった。
2005/01/23
転ばない靴ひも、秋にも実用化
靴メーカーの月星化成が、転ばない靴ひもの開発に成功したと発表した。安全性実証のための試験も終了し、今年の秋にはこの靴ひもを装備した新商品が店頭に並ぶ見通しだ。
同社基礎技術開発センター主査の片平和裕氏は「靴のデザインが過去100年間にわたり進歩した結果、靴はひもを穴に通しておくだけで脱げなくなっている。いま、靴ひもをしばる理由は、放っておくと転んでしまうから」と語る。「逆に、転ばない靴ひもなら、結ぶ必要はないはず」
開発は3年前の秋、素材の選択から始まった。研究員が探したのは、片方の靴からだらしなく伸びてもう一方の靴底に踏まれても、引っ張られるとスルリと抜ける摩擦抵抗の極めて低い素材。数百種類の候補から、繊維の表面にテフロン加工をほどこしたひもに白羽の矢が立った。
昨年の夏以降、月星化成のテスト歩行者が、都内のアスファルト上、千葉県の九十九里浜、北海道の雪原、鳥取砂丘などで、過酷な条件のもと試験を繰り返したが、これまで転倒者はゼロ。靴ひもをほどいたまま山寺の長い石段を駆け下りる危険な実験にもパスし、安全性が実証された。
日本総合研究所の山本美智子上級研究員によれば、日本人は毎日、靴ひもをしばったりほどいたりするのに、のべ822万分もの時間を費やしており、転ばない靴ひもの開発でこの時間をレジャーや飲食にあてる人が増えると期待されている。
転ばない靴ひもの開発について、靴ひもをしばらない人でつくる市民団体「日本靴ひも解放戦線」の平岡悟朗代表は、「危険性がなくなった意味で、靴ひもをしばらずに歩く行為が社会の窓を開けたまま歩く行為に初めて肩を並べた。高く評価したい」とコメントしている。
2004/08/10
赤いダイヤは勇気の証
東京都港区。幹線道路に面した自動車のショールームでは、日曜日だというのに冷やかしの客さえほとんど来ない。今日は早めにシャッターを下ろしても、だれにも文句を言われないな、と若手社員が心のなかでつぶやいた瞬間、この日初めての客がやってきた。
「赤がいいかな。いや、銀だな。うん、銀にしよう」
山口尚也さんは28歳の建設作業員。18歳で初めて中古で自動車を手に入れて以来、同じメーカーの車を乗り継いできた。昨今の欠陥やリコール隠しをめぐる騒ぎは、もちろん聞いている。が、いまさらほかのメーカーの車に乗る気はさらさらない。
山口さんが購入を即決したのはコルト。周りを取り囲んだセールスマンのなかには、もう永遠に売れないかもしれないという不安のなか、思いがけなく舞い込んだ注文に涙ぐんでいる人もいる。
数日後、山口さんが車を取りに来た。キーを受け取り車に乗り込む。ディーラーの裏側にある出口から、左右を確認して車道に出ようとした瞬間、大柄な白人男性が両手を広げて道をふさいだ。
怪訝な顔で窓をおろした山口さんに、外人は話しかけた。
"Do you wanna be a stunt man?"
この外人は、ハリウッドでスタントマンの事務所を経営するビル・マットソンさん。はるばる日本まで新人スタントマンをスカウトに来た理由について、彼はこう語った。
"I've been looking for a REAL samurai. He is the one."
富山県内にある別のディーラーでは、カタログを広げて商品の魅力を説明するはずのテーブルの上で、セールスマンが新聞を読み、眉間にしわを寄せている。
「国交省、三菱ふそう社長に厳重注意」
三菱ふそう、そしてその親会社である三菱自動車が、深刻な販売不振にあえいでいる。欠陥隠しを伝える大きな見出しが連日、紙面を飾る現状では、どんなに優秀なセールスマンもお手上げだ。25年間にわたり三菱車だけを売ってきた男性社員は「大学を卒業した娘に、うちの車を勧めたかったんだけど」と苦笑する。
しかし、そんな三菱車を買う人が、少数だが、いる。
1546台――今年6月のコルトの販売台数だ。昨年同期比を約6割下回り、社運をかけた主力車種としてはとても十分な数字とはいえない。それでも、足元から崩壊した三菱車の信頼性を考えれば、1546台も売れたのは驚異的といえるだろう。普通ならこの時期、三菱車は買わない。言い換えれば、普通でない人が、1546人のユーザーのなかにちらばっている……。
群馬県の峠道。週末の深夜になると、県内はもちろん、関東一円、遠くは関西方面からも多くの車が集結する。彼らが競うのは曲がりくねった道を、どれだけ速く駆け抜けることができるか。勝つために必要なのは優れた性能の車、高度なドライビングテクニック、そして――これが最も重要なのだが――死を恐れない度胸だ。
星空の下、低く力強い排気音が次第に大きくなる。森にさえぎられた暗闇から、ヘッドライトの光が伸びる。その直後に猛スピードで視界に現れたのは2台のスポーツカー。車体をガードレールぎりぎりのところまで寄せながら、コーナーを駆け抜けていく。そんなシーンが毎晩、何度も繰り返された。少しでもコントロールを誤れば、運が良くてガードレールに接触、運が悪ければ谷底が待っている。
かつて、この峠道では数々のヒーローが生まれた。極限までブレーキを踏まない男や、ガードレールに数センチ単位まで寄った男が伝説になった。彼らのうちあるものは結婚して子どもができたとたんに死が恐ろしくなり、そしてあるものは大けがをして峠を去っていった。谷底に転落して二度と生きては戻らなかったものも、一人や二人ではない。
この夏、峠の様子が変わった。コーナーを攻めるのは1台のコルトだけ。攻めるといっても、ドリフトするでもなく、急加速するでもなく、ひたすら制限速度を守り、ガードレールとの間に十分な間隔を保ったままコーナーを通過していく。
テールランプの赤い光をみつめる道端のギャラリーからは、羨望とも畏怖ともつかないため息がこぼれる。
「あ、あれが伝説のコルトか。まともじゃねえ……」
何の前触れもなく峠に現れたこの黄色い乗用車が、走り屋たちの尺度を一夜にして根底から覆した。いま尊敬を集めるのは、「速いやつ」ではなく、プロペラシャフトやタイヤが脱落するリスクを省みずに三菱車に乗る、命知らずのドライバーだけだ。
夏の虫の音にかき消されそうな押し殺した声で、こんな会話も交わされていた。
「中古車業者に持ち込んだら、安く買い叩かれるらしいぞ」
「し、信じられねえ。オレにはとても乗りこなせねえ」
田上紀夫さんは腕を組んで考えていた。
――やはり、こうするしかないのではないか。自分の勇気を証明するためには、ほかに方法はないのではないか。
田上さんは過去にも数年ごとに、自らの度胸を試すために命をかけてきた。周囲の誰もが、田上さんが失敗やけがはもちろん、命を落とすことさえも恐れない勇気の持ち主であることを認めている。しかし、田上さんはひとつの思いにさいなまれていた。
――これまで自分が続けてきた挑戦は、じつはまやかしに過ぎなかったのではないか。神様も、実はお喜びではないのではないか。
コルトを買うこと自体には、家族や友人は反対しなかった。ただ、それは車道を普通に走ればの話。田上さんがあるアイディアを明かすと、誰もが「いくらなんでもそれは無茶だ」と制止した。
――たしかに死ぬ可能性はある。途中で車になにが起きるかわからない。危険は承知の上だ。しかしこの挑戦で、私は本当の勇者として歴史に名を刻むことができる。諏訪大明神もきっと喜んでくださるに違いない。
長い自問自答の末、田上さんは明確な答えに至った。御柱ではなくコルトの運転席に座った田上さんは、エンジンをかけ、急斜面に向けて車をスタートさせた。
2004/07/17
ヒトクローン胚作り、条件付きで認める
総合生命科学技術会議の生命倫理専門調査会は13日にまとめた最終報告書のなかで、ヒトのクローン胚作りを条件付きで認めた。これにより日本もヒトクローン胚を用いた基礎研究や治療に向けて一歩踏み出すことになる。
報告書はクローン人間の誕生につながる研究目的、営利目的のクローン胚作りを、生命倫理の観点から妥当性に疑問が残るとして今後も禁止するよう強く求める一方で、個人として楽しむ場合に限って解禁するべきと結論づけている。テレビ番組を録画して放送終了後に楽しむことは事実上解禁されているのに、人間の胚だけを特別視するのは、法の下の平等の原則からみて不適切というのがその理由だ。
同じ論理から、将来は研究目的のクローン人間作りが禁止される一方で、個人として楽しむための趣味のクローン人間は解禁される公算が大きい。盆栽やランの栽培などの趣味と同じ気軽さで、精魂込めて「自分」を作る時代が到来しそうだ。
現時点でクローン胚作りに関する技術が完全に確立したわけではないが、近い将来、一般大衆にも使用可能なキットが開発される可能性もある。爆発的なクローン人間の増殖につながり、普通の生殖を経て生まれる人間の権益が阻害されるとの懸念から、専門家の間では未然に遺伝子にコピーガード情報を盛り込んでおくべきだとの声も出ている。
2004/07/14
プロ野球、新体制の構想固まる
プロ野球のオーナー会議が6日に都内で開かれ、来シーズンから巨人のみの1球団制でペナントレースを戦うことが確定的となった。巨人との試合で観客を増やしたいとするパ・リーグの各球団と、巨人との試合が減るのは受け入れられないとする巨人以外のセ・リーグ球団が歩み寄ったかたち。これにより来シーズンの巨人は、今年を上回る「史上最強打線」となる公算が強まった。
両リーグ事務局から提出され、コミッショナー会議で了承された案によれば、来シーズンはすべての球団を「巨人」と呼び、チームの勝敗にはこだわらず、奪三振、防御率、ホームラン数など個人成績だけを競うようにする。従来の一軍、二軍だけでは他チームの選手を吸収しきれないことから、一〜十二軍として試合を行い、年間成績に応じて翌シーズンの順位を入れ替える。なお、来年の十二軍の選手寮は横浜または神戸に設けられる案が有力だ。
この改革がドラフト制度にも大きな影響を及ぼすのは必至。逆指名の有無やくじ運のよしあしに関わらず、巨人に入団することは確定的であるため、ドラフト会議直後の記者会見では、有望選手が軒並みガッツポーズを見せることになりそう。「元巨人」を名乗れるようになる解説者も、この決定を軒並み歓迎している。
テレビ局各社も統合に賛成している。かつては20%以上が確実だった巨人戦のナイターの視聴率も、最近では10%台に低迷。1球団制の導入で、東京ドームの巨人対巨人、甲子園球場の巨人対巨人、福岡ドームの巨人対巨人の3試合だけでも、合計視聴率20%以上は確実との見方で関係者は一致している。
阪神、西武、ダイエーなど人気球団のファンも、来年からは巨人ファンに組み入れられる。一方、アンチ阪神、アンチ西武、アンチダイエーなどが、すんなりとアンチ巨人への変身を受け入れるかどうかは不透明な情勢だ。
2004/07/09
